受賞メッセージ
東洋クロス株式会社
このたびは「2021年消費科学フロンティア賞」という栄えある賞をいただき、誠にありがとうございます。大変光栄に存じます。選考委員の先生方をはじめ、事務局の方々、これまでに、耐久性を向上させた多孔質合成皮革「パーミア®」の研究開発、生産、販売に携わってこられた皆様方へ、心より感謝を申し上げます。
また、この商品を通じてお会いしたお客さま方、陰になり私を支えてくれた家族にも、この場をお借りしてあらためて感謝の気持ちをお伝えいたします。
多孔質合成皮革「パーミア®」は、湿式成膜法で布帛上にポリウレタン多孔質層を形成した銀面調の湿式合成皮革です。一般的な銀面調の湿式合成皮革と異なり、最表層のポリウレタン乾式無孔膜層や中間層の接着剤層が無いため、多孔質の特徴を有した合成皮革となります。表面構造は他の合成皮革と一線を画し、開孔径50μm程度の通気孔が表面に設けられており、通気性としっとりとしたソフトな触感を有することが特徴です。
この多孔質合成皮革「パーミア®」は、私が入社した20年以上前から生産されておりましたが、当時の用途は触感の良さを活かした宝石用小箱や使い捨てを前提とした雑貨品のみでした。耐久性の面で問題があり、他の用途には全く使用できないという問題がございました。それゆえ、より多くの方々に多孔質合成皮革「パーミア®」の良さをご理解いただき、ご愛用いただくことが当時からの目標でした。
実際には2005年から、多孔質合成皮革「パーミア®」の耐久性を高める研究開発が行われました。まず初めに、多孔質層を形成するポリウレタン樹脂の加水分解性を改善するため、ポリエステル系ウレタン樹脂組成から、ポリカーボネート系ウレタン樹脂組成へ変更する開発から着手いたしました。2007年頃には耐久性を高めた本格的な用途展開として、自動車用シートを目標とした多孔質合成皮革「パーミア®」の開発を開始いたしました。多孔質の特徴を残しつつ、自動車用途の高い要求品質を両立することは非常に困難でしたが、最終的に透湿性能と耐水圧性能、高い耐摩耗性能を有した多孔質合成皮革として完成いたしました。また、このような商品開発を行う過程で、通気性や透湿性、防水性を制御するために必要な表面加工技術も深く進化いたしました。耐久性を向上させた多孔質合成皮革「パーミア®」は、要求される摩耗強度や使用目的に応じて、表面の開孔径を制御します。これら技術の向上により、これまでになかった家具用ソファや自動車用シートの表皮素材として採用が可能となりました。
例えばシート用表皮素材として使用された場合、着座時の発汗によるムレ感を緩和するという消費科学的特徴を有し、耐久性と機能、触感の良さを満たした特殊な合成皮革となります。そのほか、ゴルフ手袋用として使用された場合、従来は摩耗強度が低いため、高いグリップ性が付与できず、手の甲部分にだけ採用されておりましたが、このような技術を応用し、摩耗強度を改善することができるため、グリップ性を高く付与することが可能となり、掌部分にも採用されるようになりました。このように耐久性を高めたことをきっかけに、様々な用途への拡大につながっております。
近年は、これら多孔質合成皮革「パーミア®」の物理的特徴を視覚化、定量化するため、親会社である東洋紡の知見や快適性評価技術を活用させていただき、消費科学的特徴を視覚化、定量化することを試みております。例えば数値化が難しい触感については、触感マップを活用することで、商品の優位性やお客さまの立場からご判断いただき易くする消費科学的評価を行っております。このように、お客さまの立場から、耐久性を向上させた多孔質合成皮革「パーミア®」の消費科学的特徴を視覚化、定量化することは、採用数の増加につながっております。
今後も、快適性評価のさらなる深化により、多孔質合成皮革「パーミア®」の新たな消費科学的特徴を見出して開発に生かし、消費生活の発展を実現していきたいと考えております。今回の受賞を励みに、繊維製品消費科学の発展に役立てる技術開発に取り組んで参ります。学会関係の皆様には、今後ともご指導、ご鞭撻を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
株式会社ワコール人間科学研究科
このたびは「2021年消費科学フロンティア賞」という栄誉ある賞を賜り、大変光栄に存じます。選考委員の先生方、事務局の方々、また私たちの研究成果を具体的な商品として生産し販売にまで結び付けて下さった皆様に心より感謝申し上げます。
2010年のバストの加齢変化の研究から、バストをいつまでも美しいまま保つためにブラジャーが貢献できると考え、研究開発に取り組んできました。しかしながら、重力の影響がないバスト形状を捉えることは非常に難しく、バストの微小重力実験によってはじめて、研究がスタートできました。微小重力下では、バスト底面(アンダーバスト)位置が高く、バストの上下左右のボリュームの片寄りが少なく、半球状に近い形状で、バスト上部の皮膚伸びも軽減されていました。つまり、重力下では、重力の影響をうけ、バストの皮膚が引っ張られ、変形していることが捉えられました。
次に、設計をどのようにすればよいのか、これも大きな課題でした。最初に分析した段階では、微小重力下で得られた形状がブラジャーを着用した形状と非常に似ていたからです。しかし、実験を重ねていくなかで、通常のブラジャー設計は、立位を基にしており、前屈位など重力の方向が変わったときの対応は不十分であることがわかりました。そこで、姿勢変化によるバスト形状の変形を少なくするために、ブラジャーのカップ部をカップとカップ内のシート(バストケアシート)の2重構造にし、バストケアシートで、トップ(乳頭)付近を支えることと姿勢ごとにバストの荷重方向が変わってもバストケアシートの保持力が働くよう工夫をしました。それにより、バストを無理に押さえつけずに、姿勢が変わってもバスト形状を維持することができ、皮膚伸びを抑えることが実現できました。
開発したブラジャーは、2020年1月より、「重力に負けないバストケアBra®」として販売を開始し、シーズンを経るごとに取扱いブランド数を拡大して提供することができ、お客様からも着用したときのフィット感、姿勢をかえても着崩れない安定感などを実感していただいております。今後は、バストだけでなく、からだに対しての重力の影響を明らかにすることで、新しい視点からお客様の生活を支援できる商品開発に取り組み、より豊かな生活の実現につなげていきたいと考えております。
学会関係の皆様には、今後ともご指導、ご鞭撻賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。